研究内容

高密度プラズマの生成・制御,高フラックスイオンの加速に関する研究

 固体にパルスレーザーを照射して得られるレーザープラズマは高密度で高い指向性を持つため, 重イオン慣性核融合(HIF)のドライバー加速器用イオン源への応用が期待されています.しかし,HIFドライバー加速器のイオン源に対する要求はとても厳しく,レーザーイオン源が解決すべき課題はたくさんあります.なかでも重要な課題として「プラズマ供給量変動の抑制」と「イオン価数純度の向上」があります.レーザープラズマは一般に様々な価数のイオンを含むだけでなく,各価数のイオンの割合(価数分布)が時間変化します.つまり,レーザープラズマから安定にイオンビームを引き出すには,プラズマ供給量とイオン価数分布を同時に制御することが必要になってきます.

 プラズマは荷電粒子の集まりなので,磁場によりその空間分布やふるまいを制御することが可能です.そこで私たちは,プラズマ供給量やイオン価数分布の制御に磁場を用いることを検討しています.プラズマの進行方向に平行な磁場を印加し,さらに磁場強度を時間変化させることで,プラズマ供給量や価数分布を能動的に制御することを目指しています.一方,プラズマが磁場中を移動すると,様々な不安定性が誘起される可能性があり,プラズマの空間分布や運動量分布に「乱れ」が生じることが懸念されます.このプラズマの乱れが引き出されるイオンビームの品質に与える影響について調べることもこの研究の重要な目的です.

 この研究では,私たちの研究室が保有するレーザーイオン源テストベンチを用いています(右図).このテストベンチは,100 mJ級のKrFエキシマレーザーとNd:YAGレーザーの2台のレーザーを採用しており,紫外域から近赤外域までの様々な波長のレーザー光を用いてプラズマを生成できます.プラズマ生成チャンバーは10-5 Pa程度の超高真空になっています.遠隔操作が可能なXY精密ステージ上にレーザー標的をおくことで,不純物や履歴効果の影響を抑えた再現性の高いプラズマ生成を実現しています.

 ところで,HIFドライバー加速器に供給するイオンの価数はなるべく低くする必要があります.これはイオン同士の反発力によるビームの発散を抑えつつ,非常に多くのイオン(≥1015個)を輸送しなくてはならないからです.レーザープラズマ中のイオンの価数分布はレーザー強度,レーザー波長に依存します.私たちは標的元素とレーザー照射パラメータ(波長,照射パワー密度など)の組み合わせを系統的に変えることで,価数純度の高いプラズマを得るための条件を明らかにすることを目指しています.また,ソレノイドコイルによって発生した磁場により,プラズマイオン供給量を動的に制御する実験も行っています.右の写真では,レーザー標的から噴き出すプラズマプルームに,数cm下流においたソレノイドコイルにより磁場を印加している様子です.プラズマの発生に対して磁場を印加するタイミングを最適化することで,プラズマイオン電流波形の能動的な制御が可能であることを最近見出しました.